韓国で活躍する歯科衛生士さんに聞く「韓国のオーラルケア事情」
2017年03月03日
オーラルコムのマタニティ歯科相談室、こども歯科相談室が韓国でも公開されることになりました。公開にあたり、韓国の予防歯科事情について、歯科衛生士の文智鈴(ムン・チヨン)さんにお聞きしました。
- Q.韓国の人のオーラルケアの意識について教えてください。
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文:韓国人のオーラルケア意識は、かなり高いレベルではないかと思います。幼いころから「歯の大切さ」について習いますので、「歯に問題が生じたら、すぐに治療する」行動は他のどの国よりも早いと思います。ただ、治療後、あるいは問題発生前の日常的な予防管理となると、少々疎かになってしまうかもしれません。セルフケアよりも専門家ケアや治療の方に重点が置かれる傾向がありますね。病院に勤めていた頃、何ヶ月間もかかった治療が完了して「これからセルフケアをしっかり行い、定期検診に通いましょう」と指導をしても、6ヶ月~1年が過ぎると検診のための来院をやめるケースが多く、とても残念でした。
- Q.韓国は一人当たりのニンニクの消費量がとても多いですが、どんな口臭対策をしているのですか?
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文:特別な口臭対策はないですよ。ほとんどの韓国料理にニンニクが入っているので、かえって特別意識しないといいますか。さすがに生ニンニクを焼肉と一緒に食べるときなどは、すぐに歯みがきをするか、難しければ、水かマウスウォッシュですすぐ、コーヒーなどの飲み物を飲む、キシリトルガムを噛むなどしますけどね。
口臭を訴求する商品は発売されていますが、日本ほどではなく、特別よく売れているわけでもありません。周囲の人に聞いてみても、口臭対策は基本歯みがきという答えが多かったです。ちなみに、生ニンニクを食べるのは焼肉を食べるときで、もちろんお酒も一緒に飲むので、ニンニクそのものの臭さよりお酒の臭さにより気を使うという回答もありました。(笑)
- Q.韓国の予防歯科事情について教えてください。
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文:先にも触れましたが、韓国は「予防」より「治療」の傾向が強く、研修を通じて私が経験したどの国よりも歯を大事にする文化にもかかわらず、なかなか予防には力が入りません。背景には、政策的や教育的な問題もあると思います。韓国人の「定期口腔検診」の割合は51.7%(*)と決して低くはありません。成人対象の職場検診の場合、年1回、国民健康保険検診の場合、2年に1回の口腔検診が義務化されています。乳幼児の場合は2歳、4歳、5歳、小学校1年生、4年生、中学校1年生、高校1年生の検診報告が義務化されています。ところが、定期口腔検診が法的に義務化されているにも関わらず、2013年まではスケーリング治療が保険適用項目に含まれていませんでした。つまり、定期検診を通じて、お口の健康状態について知っても、予防治療のためには自費で6千円ほどの高い治療費がかかってしまうシステムだったのです。しかし、2013年9月から年1回のスケーリングが保険適用されるよう制度が改善されました。2012年の調査では、「1年間歯科病医院で受診した口腔診療内容の内、‘予防処置’の割合は18.4%」でしたが、2017年の調査ではどのような結果が出るか、改善された数値を見るのが楽しみです。
予防治療活性化のためには、幼いごろから「正しい歯みがき」教育が体系的に行われる必要がありますが、韓国も日本と同様、学校の保健室に歯科衛生士の先生は勤務しておらず、口腔教育を行うためには、地域保健所に各学校、各学級から口腔教育を申し込むシステムになっていて、地域保健所で勤務する2~3人の歯科衛生士だけでは、管内のすべての学校や学級教育を消化し切れてないのが現実です。私が研修に行っていたフィンランドでは、学生が下校する前に常勤する歯科衛生師先生に‘フッ素ウガイ’をしているか確認してもらいOKなら家に帰れるシステムになっていました。むし歯が進行する時期に学校でそのようなシステムがあったら、むし歯予防はもちろん、子どもたちのセルフケア習慣にもつながるでしょうし感心したことがあります。韓国でも日本でも実施されるようになったらいいですね!
*国人口腔健康実態調査・2012年/5年一回実施されるので最新のデータ
- Q.韓国の歯科医院事情について教えてください。美容整形が盛んな韓国では、歯列矯正も盛んなのでしょうか。
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文:はい。他の国と比べても韓国では歯列矯正治療が積極的に行われています。背景には「歯は五福の一つ」として、歯をとても大事にする慣習と、歯列が与える印象を社会が重要視する文化があると思います。実際に、口腔診療内容調査でも、「むし歯治療43.1%」、「歯茎治療4.8%」「補鉄治療3.4%」、「矯正、審美治療6.7%」と「矯正、審美治療6.7%」の割合はむし歯治療の次、歯茎治療や補鉄治療の受診割合を上回っています。矯正治療以外で主に行われる審美治療は、ホワイトニングや前歯部ラミネートがあります。日本の患者さんから“歯科に通いたくないから日々のセルフケアを頑張っている”という声をよく聞きますが、韓国では、セルフケアよりもプロケアに依存しているケースが多く、特に歯列矯正や審美治療領域ではそのような傾向が強いのではないかと思います。
- Q.マタニティ歯科相談室、こども歯科相談室が公開になりますが、韓国では妊婦さんやお子さんのオーラルケアへの関心は高いのでしょうか。
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文:そうですね。忙しい生活の中では、痛みを伴ったり何か不便がなければお口の健康に気を使うことはなかなか難しいですが、妊娠すると体に起こる変化に敏感になり、また妊娠とともに歯茎に少しずつサインが現れることで、自然と歯や歯ぐきの健康に関心を持つようになるようです。
自分が幼い頃、むし歯で痛い思いをしたとか、歯列がよくなかったので、自分の子どもには絶対その思いをさせたくないといった気持ちが強い人は、子どもの定期健診に熱心に通われたりしますね。
私は、現在8つの保健所の妊産婦教育や乳幼児保護者教育を担当しているのですが、教育に参加する妊産婦や保護者は、歯科治療に対する関与の割合が高く、関与が高いほど教育の効果も高くなります。こうした教育寄付事業は2013年から持続的に実施されていますが、要請が絶えることはなく、お口の健康情報に感心が高いと感じています。講師不足などで教育要請に対応し切れない悩みもありますが、今回、オーラルコムのマタニティ歯科相談室&子ども歯科相談室のコンテンツを韓国でも発信できるようになり、より多くの生活者に情報提供できるようになりました。本当に嬉しく思います!
- Q.最後に、今後の抱負をお願いします。
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文:いつも願っていることがあります。「歯みがき教育」が適時かつ体系的に行われるシステムを社会的にしっかりと定着させることです。家庭から始まる歯みがき習慣が、保育園&幼稚園でのお昼歯みがき習慣につながり、小学生でもセルフケアを持続的に習い、それが生活習慣になる。お母さんから自分へと健康管理主体がシフトする小学生の時に、体系的に正しい歯みがき教育が行われ、それが一生の予防管理習慣につながれば、社会も「治療」から「予防」に移転できると思います。どの段階一つをとっても、重要ではない段階はありません。特に小学校時期は大切です。そのようなシステムが実現することを願っています。
- いかがでしたか?
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「予防より治療」の傾向が強いのは日本も同じかもしれませんね。良い予防習慣を広めるために、オーラルコムは、これからも良質な情報を発信して参ります。
- 歯科衛生士
- 文智鈴(ムン・チヨン)
- 韓国で歯科衛生士学校を卒業後、病院の歯科で臨床経験を積み、韓国歯科矯正研究所に転職、日本を始めアメリカ、タイ、香港などの医科大学、歯科大学で研修の機会を得る。その後、CJLIONに入社し、現在はCSR・社会貢献、教育寄付事業を担当している。
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